香港 日帰り!関西⇔香港 搭乗ルポ
2022年初頭からの新型コロナウィルス感染症のパンデミックで海外旅行はもちろんのこと、国内旅行ですら飛行機に搭乗する機会がめっきり減ってしまった。ようやく日本では行動制限が緩和されて空港は少しずつ活気を見せ始めている。
そんな中、少しでも海外旅行に親しんでもらおうと香港をベースに世界各都市へ路線網を拡大しているキャセイパシフィックが“日帰り香港弾丸フライト”というユニークな空の旅を旅行会社と提携して発表した。
渡航日現在、日本からの香港への入国は、隔離措置はなくなったものの「オンライン健康申告の入力」、「出発時刻の24時間前以内の迅速抗原検査の陰性証明書」、「ワクチン接種証明書」が必要となることから、香港入国のハードルは高い。
乗り継ぎであれば「乗り継ぎ時間が24時間以内」かつ「乗り継ぎ用の確定済みの航空券または搭乗券」を持っていれば、乗り継ぎが可能となる。
よって入国のハードルを逆手に香港には入国せずトランジット扱いでそのまま日本へ折り返すというのが今回の旅だ。コロナ禍で海外旅行が遠ざかってしまったので、リハビリするにはちょうどよい旅になりそうだ。
私自身も久々の国際線搭乗とあって数日前から心が弾んでいた。日本入国に必要な入国管理アプリ「MySOS」を早々にダウンロードし、空港での手続きが簡略化されるという「青色」画面を取得した。フライト前日には、オンラインチェックインでビジネスクラスの窓側のソロシートを指定。現在は行き先によっては渡航書類の確認が必要とあって搭乗券は事前に受け取ることができず、当日にチェックインカウンターに立ち寄る必要があった。地上係員と何気ない出発時に会話するのも旅の醍醐味と感じるので私にとっては好都合だ。
フライト当日、関西国際空港の国際線フロアにいる乗客は少ないが、キャセイパシフィックのカウンターは香港を経由する乗客が多いのか、少々賑やかな光景であった。搭乗手続きでは、帰りの“関西空港行き”の搭乗券も渡され少々戸惑うが、これも新鮮な体験だった。コロナ前の午前の出発ラッシュ時には、大勢の旅行客が長蛇の列を作っていた手荷物検査場もスムーズに通過し、顔認証システムで出国完了。免税店やカフェなどはまだ数軒しか空いておらず、まだまだ乗客は回復していないのだと実感した。
今回のこのフライトで用意されたのはビジネスクラスということで、メインターミナルビルにあるノースラウンジが提供された。各航空会社共有のラウンジだが離陸していく飛行機を望むことができる開放感があるラウンジで、サンドウィッチやおにぎり、フルーツなどの軽食がサービスされ、出発前のひと時を過ごすことができる。
関西国際空港 ターミナル1のCアイランドでチェックイン | 窓側の一人掛け席がお勧めな航空各社共有ラウンジ「ノースラウンジ」 |
サンドウィッチやフルーツなどの軽食が並ぶカウンター | 窓側席からは第一滑走路を望むことができる |
搭乗開始のアナウンスが流れ、優先搭乗が始まる | コクピット窓の黒いマスキングと翼端のウイングレットが特徴的なエアバスA350 |
北ウイングの7番スポットで翼を休めていたのは、搭乗機のエアバスA350-900(B-LRL)だ。キャセイパシフィックはエアバスA350-900と胴体を延長したA350-1000の2タイプを導入し、2016年9月1日に香港~デュッセルドルフ線に導入され、香港~関西線には2017年1月に就航している。
CX503便の搭乗開始のアナウンスがゲート内に流れ、一気に旅の興奮度が増す。機体のドアサイドでは、客室責任者のChowさんが迎えてくれた。
ビジネスクラスは合計38席あり、機体前方1番目のドアから2番目のドアまでのコンパートメントと、その後のコンパートメントにもさらに2列だけのビジネスクラスのコンパートメントがある。こじんまりした雰囲気が好きな方にはビジネスクラス後方2列の席がお勧めだ。
ビジネスクラスは1-2-1の横4席で、各座席が斜めに配置されているヘリンボーン型の大型シートがお目見えする。座席を斜めにし、さらにパーティションを設けることで、隣席の乗客の目線や通路を行き来する乗客やクルーの気配があまり気にならず、いわゆる“浸れる”訳だ。そしてすべての座席が通路に面しているため、長時間のフライトでもストレスを感じない。人間工学や機能性に定評のある「ステュディオ・F.A. ポルシェ」がデザインを担当したこの全長191cmのフルフラットシートはワンプッシュでベッドモードと離着陸モードとに切り替えることができる。
ビジネスクラスのシート前方にはオットマンがあり、その下の収納スペースにはブリーフケースなど小型の荷物や靴が収納できる。さらにサイドのオットマンの一部は文庫本やスマートフォン、眼鏡ケースなどのちょっとしたものを収納するには便利な荷物入れになっており、わざわざ頭上の荷物入れから出す必要はない。今や必須となったデジタルデバイスの充電関係は、大型ヘッドフォンが格納されているキャビネットにシンプルに配置されていた。機内エンターテイメントは、「StudioCX」システムで映画や音楽コンテンツをタッチパネル式の18.5インチの高解像な個人モニターで楽しむことができ、手元にもエンターテインメントをコントロールできる4.3インチのビデオハンドセットも装備されているので操作の不自由はない。日本語プログラムも豊富で、長旅の退屈さは感じないはずだ。
エアラインによってはエアバスA350のビジネスクラスの中央頭上の収納棚を設けていない場合もあるが、キャセイパシフィックのエアバスA350には設置されている。これも香港を経由する乗客が機内持ち込み手荷物を持ち込むケースが多いからだろう。
またビジネスクラス最前方のラバトリーには窓が取り付けられているので、日中のフライトではラバトリー内が明るく開放感がある。
ひと通り座席回りの確認を済ますと、旅の始まりを告げるようにウェルカムドリンクが振舞われた。
各座席が斜めに配置されているヘリンボーン型 | 窓側席は窓側に向いて斜めに配置されている |
至る所にキャビネットがあり収納には困らない | ヘッドフォンが収納されているキャビネットにはUSB端末をはじめ、ミラーがあり到着前の身支度に役立つ |
大型のテーブルは食事やノートパソコンを広げるには十分だ。 | 通路側のアームレストも下がることから、ベッドとして使える範囲が広くなる仕組みがある |
コロナ前なら午前の出発ラッシュで離陸まで待たされるがまだまだ便数が少ないこともあり、スムーズに滑走路(RWY06R)に入った。エアバスA350用に開発されたロールスロイス社製のエンジンは、パワフルではあるが驚くほど静粛性があり、離陸時も機内の騒音が軽減されている。
ベルト着用サインが消灯すると、ドリンクサービスが開始されしばし喉を潤す。続いてビジネスクラスの昼食のサービスでは3種類のメインコースからチョイスできる。正直、久々の国際線とあって何にしようか迷った。「テンダーロインステーキのマスタードソース添え」、「カラスガレイの豆板醤ソース」、「鶏もも肉のゆずソース添え」とある中、最終的に機内食の王道ともいえるステーキをチョイスした。
中距離線といえども、まずは前菜のプレートがサービスされ、続いてメインプレートがサービスされるスタイルだ。メインプレートは、しっかりとグリルされた香ばしく柔らかいステーキにマスタードソースがよく合い、赤ワインが進む。また食後にはフルーツやチーズの盛り合わせとハーゲンダッツのアイスもサービスされ、しっかり食事を堪能できる内容だ。
食後、仕事のメールを確認しようと機内Wi-Fiサービスの接続に試みるが、近年、いつでもどこでもオンラインに繋がる環境からフライト時間だけでも“デジタルデトックス”してみるのもいい機会かと思い、今年話題になった映画「トップガン マーベリック」をノイズキャンセリングヘッドフォンで鑑賞した。映画も後半になると当時に、機首が下がり始め早くも香港国際空港への降下が開始された。
メニューを見ながら、注文を迷ったのは言うまでもない。 | 前菜プレートの「車海老のラタトゥイユ添え」 |
香ばしくグリルされた「テンダーロインステーキのマスタードソース添え」 | フルーツの盛り合わせとアイスクリーム、そして食後のコーヒー |
やがて右手の大型の窓に中国・深圳市の高層ビル群が遠くに見え始めた。左手に座っていた同行者は香港のビクトリアハーバーが眼下に見え、上空から香港の街並みを俯瞰していたようだ。
CX503便は、従来の空港からさらに沖合に建設され今年7月8日に共用が開始された新滑走路(RWY25R/07L)にスムーズにランディング。新滑走路周辺からターミナルへつながる誘導路がまだ少ないこともあり、約17分のタキシングでW44スポットへと駐機した。
降機しすぐさま帰路のフライトへの手続きに入る。途中、トランジット客と入国客との分岐があり、入国客は書類関係の手続きに入る。トランジット客は、トランジット用のチェックポイントでパスポートの読み取りと顔認証システムの登録を経て、手荷物検査場へ移り、1階上がると搭乗待合エリアへと進むことができる。
香港国際空港では飛行機への乗り継ぎもさることながらフェリーターミナル「SkyPier」からグレーターベイエリア (マカオ・中国深圳エリア)間を結ぶ高速フェリーへの乗り継ぎ動線もある。キャセイパシフィックでは、高速フェリーにキャセイパシフィックの便名が付与され、飛行機を予約すると同時に高速フェリーも航空機での乗り継ぎを予約する感覚で一気に予約ができる。また香港では預けた荷物はそのまま最終目的地まで運ばれるため、香港国際空港での乗り継ぎが便利になるのでお勧めだ。
プレミアムエコノミークラス。2-4-2の8席で、フルリクライニングとレッグレストを出した状態 | エコノミークラスは3-3-3の9席。テーブルは2段階に折りたためるタイプ |
ビジネスクラス最前方のラバトリーは窓付きの明るい空間 | 高度40,000フィートの空の旅。翼端のウイングレットがエレガント |
「中国のシリコンバレー」と言われる深圳がすぐそこに | 到着後、トランジト客はサインに従って進む |
手荷物検査後は、まだコロナ禍で数店舗しかオープンしていない免税店やカフェなどを見ながら、香港国際空港のキャセイパシフィックのラウンジで最も広い「ザ・ピア」へと案内された。「ザ・ピア」では食事を提供している「フード・ホール」をはじめ、豊富な種類のお茶を楽しめる「ティー・ハウス」、香港の点心も味わえる「ヌードル・バー」、そして長時間の旅の合間に重宝するシャワールームや、ビジネスコーナーなど様々な施設を備えてる。ラウンジの入り口から奥に行くにしたがって、より落ち着いた空間を醸し出しているように伺えるラウンジだ。
せっかくなので香港のグルメを堪能すべく「ヌードル・バー」へ向かった。先客が全員「担々麵」をチョイスしていたので、焼売や水餃子の点心とともに先客に倣ってチョイス。ほんのりスパイシーさもありながら、ピーナッツスープが甘めのテイストでやけに麺に絡み、癖になる味だった。「ヌードル・バー」で軽食を楽しんだ後は、さらに奥の「ティー・ハウス」へと進む。数多くのお茶からチョイスすることができる。スタッフに好みやお勧めを聞いてみるのもよい。
キャセイパシフィックは香港を起点に各都市の路線網が多く、きっと香港に滞在しないトランジット客にも香港の雰囲気を少しでも楽しんでもらいたい。そんな想いがこのラウンジにはあるのだろう。
約3時間半の香港でのトランジットはラウンジを堪能している間に折り返し便であるCX502便の搭乗開始時間が迫っていた。N36スポットにはエアバスA350-900(B-LRV)が出発準備に追われていた。ビジネスクラスの搭乗開始のアナウンスがターミナルビル内に響くと、トランジット手続きの際に搭乗券やパスポート、そして顔認証の登録を行っていることから、なんと“顔パス”で搭乗することができたのには驚きだ。
広大な香港国際空港はまだ行き交う人が少なく、かつての光景が懐かしい | 出発準備も大詰めな折り返しのCX502便 |
往路と同じ機種、同じシート、同じ路線の折り返しではあるが、客室責任者のChanさん以下8名のクルーが変わっていることで、機内の印象が異なるのが空の旅の魅力とも言えよう。
今回のウェルカムドリンクは、シグネチャードリンクでもある「キャセイ・ディライト」を手に取った。キウイフルーツとココナッツミルクでシェイクされたノンアルコールカクテルで、キャセイパシフィックのコーポレートカラーであるグリーン色に、ミントの葉をあしらいキャセイパシフィックのロゴを表しているドリンクだ。
再び新滑走路(RWY25R)からの離陸で、一気に39,000フィートを目指す。復路は夕食時間帯とあって、4種類のメインプレートからチョイスできた。今回は香港滞在の余韻があることから、迷わず「海老ワンタン麺」をチョイスした。
あっさりしたスープに、食感があるプリプリの海老入ったワンタンが、一日中、食べて飲んだ胃を休息させてくれた。
トワイライトタイムを楽しみながら食事を終え、ベッドモードにしてうたた寝しているとベルト着用サインが点灯し降下準備に入った。やがて大阪湾をぐるりと反時計回りに回り込み、関西国際空港の第2滑走路(RWY24R)へランディング。
エアバスA350シリーズは、機内気圧が地上により近い環境に設定されていることもあり、快適なビジネスクラスシートだったことも重なり、往復6時間半のフライトでは空の旅の疲れを感じなかった。
関西国際空港では、今回は目的地に入国せずに帰国するという特殊なツアーであったために動線は通常ルートとは異なっていたが、同乗の一般乗客らもほぼ同じようなタイミングで入国エリアまで到達していたので、日本の入国もコロナ前のようなスムーズさを取り戻しつつあるのだと実感できた。
日本の出入国はコロナ前から顔認証ゲートの運用が始まっており、かつてのような出入国スタンプの押印は省略されているが、関西国際空港では顔認証通過後に係員に申し出ると出入国スタンプを押印してもらえるので、このような記念フライトではうれしい。
この約2年半の間、簡単には海外を行き来することが難しく、例え香港のような片道3時間程のフライトでもかなり遠くの街になってしまっていた。しかしアフターコロナのこれから、世界各都市へキャセイパシフィックを利用した香港経由の旅なら安心して海外に出かけられそうだ。
※出入国情報は、2022年10月21日現在のものです。最新の情報はご確認ください。
(写真・文/河村直樹)